ADSC と ADRC について

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こんにちは。培養士の杉本です。

厚生労働省のホームページには「再生医療について」というページがあり、そこに掲載されるデータによれば、第二種の治療として提出された計画は 935 件(2021年10月22日現在)あるようです。対象とされる疾患はいくつかあり、治療に用いられる細胞等は血液由来、骨髄由来、脂肪由来など様々です。当院では脂肪由来の細胞を用いた再生医療を提供しています。現在、脳梗塞と脊髄損傷を対象とした治療では ADSC: Adipose Derived Stem Cell(脂肪由来幹細胞)を用います。変形性膝関節症を対象とした治療では ADSC または ADRC: Adipose Derived Regenerative Cell(脂肪由来再生細胞)の二通りから選ぶことができます。今回は、この ADSC と ADRC の ”中身” の違いについて少し書いていこうと思います。

ADSC は脂肪組織に含まれる幹細胞で、切除や脂肪吸引などにより得られた脂肪組織から得ることができます。当院の場合は患者様ご自身の脂肪組織(10 ~ 20 g 程度)から幹細胞を取り出して、細胞の数を増やす ”培養” という工程を院内で行います。こうして増やした ADSC を脊髄損傷の場合では 1 億個程度、変形性膝関節症であれば片膝に 5 千万個程度投与しています。一方、ADRC については「脂肪由来幹細胞」と記載されている場合を見かけますが、この ADRC は幹細胞を含む細胞群です。ADRC は吸引された脂肪組織 1 g あたり 30 万個程度の細胞が得られるといわれています。その中には間質細胞、造血系細胞など多様な細胞が含まれていて、幹細胞は 2 % 程度であるとされています。一度の脂肪吸引が 100 ~ 400 g 程度だとすると、3 千万~ 1 億 2 千万個程度の細胞が得られ、含まれる幹細胞は 60 万~ 240 万個程度だと考えられます。

ADSC は培養して幹細胞を増やすので、凍結保存した細胞をまた培養することで複数回の投与を検討することができます。ただし、増やす工程がある分、必要な細胞の数を確保するのに時間を要します。ADRC は脂肪吸引から投与までがその日のうちに行われます。培養して増やす工程がなく、吸引した脂肪組織から専用の機器を用いて抽出した成分をそのまま用いるので基本的には 1 度の施術で1回の投与となります。

同じ脂肪由来の細胞を用いる再生医療でもこのような違いがあります。また、それぞれメリット・デメリットがあります。効き目については現状どちらがより優れているというのは難しく、今後も研究報告等に目を配り、ご紹介できればと思います。